心の裏返しなのか? 〜Proposition8の前には6があった。〜

<br /> TitleDPNY.jpg

***

カケル青年に誘われて、MOMAでドキュメンタリーを観た。
ドクター・カールのお友達で日本語を話せるアメリカ人の白人青年マイケルくんも誘った。
マイケル青年もゲイである。
マイケル青年の日本語はぺらぺら・レベルではないが、ある程度の会話は面白いくらい成立する。
カケル青年とマイケル青年は歳の頃も同じで、人種は違うが同じ雰囲気を漂わせている。

カケル青年が誘ってくれたのは、「ハーヴィー・ミルク」という人物のドキュメンタリーであった。
「ハーヴィー・ミルク」とは、映画監督ガス・ヴァン・サントの最新作で11月26日にアメリカ公開が控えている映画、MILKの主題になった人物である。
映画のタイトルは彼の名字から付けられた。
ミルクは牛乳と同じスペル、MILKである。

***

「ハーヴィー・ミルク」とはどんな人物なのか?
アメリカで最初にゲイであることを公言して1978年にゲイ・エリアとして有名なサンフランシスコ市のカストロ地区のDistrict Supervisorに立候補して当選した政治家である。
当選は3回目にして実現した。

ドキュメンタリーのタイトルはThe Times of Harvey Milk
ガス・ヴァン・サントの映画ではショーン・ペンが演じる。

timesofmilk
ニューヨークはロングアイランドの出身のユダヤ人で、サンフランシスコに移住し、彼氏と共にカメラ屋さんをカストロ地区で営んでいた。

***

しかし、当選して1年にも満たない時に、11ヶ月後に、ミルク氏と同じ地位である元District Supervisorで
元警察官&消防士であったダン・ホワイトにサンフランシスコ市役所内で射殺された。
ダン・ホワイトはまずサンフランシスコ市長のジョージ・モスコーネをまず射殺して、
それからハーヴィー・ミルクに弾丸を5発発射した。
そのうち3発は頭を狙って殺した。
1978年11月27日のことだ。

(この悲劇の9日前には、人民寺院の集団自殺900名事件がガイアナで起きた。
人民寺院はサンフランシスコで設立されたカルト宗教団体で、市長の知人である下院議員が射殺され、
サンフランシスコの市民が大多数の信者だった。)

ダン・ホワイトの動機は簡単には言えないだろうが、ドキュメンタリーを観た限りでは、
ゲイを支援するジョージ・モスコーネ市長とゲイであることを公言しているハーヴィー・ミルクが気に入らなかった。

カリフォルニア州では先週の選挙ではProposition 8というゲイ同士の結婚の是非について州民の直接投票が行われたが、1978年当時はProposition 6という「ゲイの教師は辞職しなければならない。教師にはなれない」という案で直接市民投票が行われたのだ。
当時の大統領ジミー・カーターも「NOと投票するように」と応援に駆け、大々的にキャンペーンが行われたようである。
結果は先の結果とは異なり、NOが大多数を占め、そんな変な法律は通らずに済んだ。

ダン・ホワイトはカソリックで、共和党で、Proposition 6の支持者だった。
市民投票の後、District Supervisorを辞職をした。
それは投票の結果だけではなく、公僕は給料も安く子供も生まれたばかりで生活が苦しかったらしい。
辞職後、復職を臨んだが、モスコーネ市長から拒まれ、そして射殺するという恐ろしく悲しい結果になった。

***

逮捕されたダン・ホワイトは裁判の結果、禁固7年という判決が下った。
2人もそれも市長とディストリクト・スーパーバイザーという公職に就いている人物を殺した、死刑もしくは終身刑に相当する罪にもかかわらず。

ドキュメンタリーでミルク氏の支持者でストレートの自動車工の男性が言っていた。
「殺したのが市長だけだったら終身刑だったかもしれない。しかし、もうひとりがゲイだったからだ。
私もハーヴィーを知らなかったら、95%のストレートと同じ考えだったと思う」

陪審員の結論は、ゲイが殺されようが、どうでもいい、
ゲイは人間ではない、と蔑むストレートの考えが如実に現れた結果だった。

この判決にゲイ達は爆発した。パトカーが焼かれ、The White Night Riotsと呼ばれる暴動が起きた。
1979年5月21日。
この模様もドキュメンタリーに収められている。

***

ドキュメンタリーの最後に、ハーヴィー・ミルクのインタビューが流れた。

「自分がゲイであることに気がついたら、自殺するか、ずっとクローゼットの中に隠れるしか選択はなかった。
しかし、カリフォルニアに来ればいい。ゲイであることを公言して暮らせるから!」

ゲイの10代の自殺率は高い。
日本では公にはなっていないが、いじめだけでなくゲイであることで将来に希望を見いだせず、絶望して
自分の命を絶っている若者も大勢いるはずだ。
サラ・ペイリン(アラスカ州の知事で共和党副大統領候補)はゲイは選択だととんでもない発言をしているが、
選択ではない、同性が好きになるのは自然のことなのだ。
しかし、ジャスティンもルームメイト氏も選べるならば苦労のない、ストレートで生まれたかったと言っている。
ルームメイト氏はずっとクローゼットにいて、ゲイであることを隠して生きてきた。
ジャスティンは隠さなかったが、祖父母からは疎まれ絶縁状態だし、同級生のストレートからからかわれ、
先生からも揶揄されて、闘って生きてきた。

その思いも重なり、彼の言葉がズーンと重くのしかかった。
しかし、ハーヴィー・ミルクが現在、生きていたら、カリフォルニア州で一旦合法になった同性婚が
州民の直接投票で禁止されたこの事実にどう対応するだろうかと思わずにはいられなかった。
「カリフォルニアに来ればいい・・・」と彼は言ったのだが・・・。

***

ダン・ホワイトがなんと2年も短縮されて5年の刑期を終え、娑婆(しゃば)に戻ってきた1984年にこのドキュメンタリーは公開された。だから、ダン・ホワイトがその後、どうなったかは語られていなかった。

ドキュメンタリー終了後、カケル青年とマイケル青年に
「ダン・ホワイトがその後、どうなったか知りたい」と言うと、
見知らぬ女性が「数年後、自殺した・・・」と教えてくれた。

釈放されて、ぬくぬくと生きていられるのもしゃくだが、自殺と聞いて更に胸が痛くなった。
自ら命を絶つこともなかっただろうに・・・。
そして私が思ったことは「もしかしてダン・ホワイトはゲイだったのかもしれない・・・」。

ゲイであることを隠している、もしくは確信が持てないがそう思っている男性がゲイに暴力を振るう。
ヘイト・クライムは心の裏返しの行為だったりする。

***

やりきれない思いで私たち3人はヘルズ・キッチンのゲイバーに向かった。
カケル青年の目には涙で濡れていた。
ゲイの結婚は合法ではないが、ニューヨークはゲイであることを堂々と公言して生きて行ける土地である。

mpw-36363
ガス・ヴァン・サントの最新作MILKのポスター。予告編を観たが、ショーン・ペンが熱演している。ミルク氏よりもどうダン・ホワイトが描かれているのが気になる。

心の裏返しなのか? 〜Proposition8の前には6があった。〜」への3件のフィードバック

  1. ピンバック: そんなことさせてたまるかぁ!ホモフォビアの映画館ボイコット! « Deeeeep! New York! 2008

  2. かかしさん

    Matthew Shepardさんのお母さんは精力的に講演活動をしているのですね。彼はAIDSだったし、私の想像以上に抗議もたくさんあるのだと思いますし、なかなかできることではありません。
    素晴らしいです。

  3. 私もこの映画を見てみたいです。でも暗くなりそう・・・。

    私にとって忘れられないhate crimeは1998年のMatthew Shepardの殺害ですした。何気なく開いた新聞の記事が目に飛び込んできて。その残酷さと、不条理さに対して、身体が振るえ、怒りで吐きそうになりました。友人の顔が心に浮かびました。

    昨年、ある集まりで、スピーカーとしてかれのお母さんが招かれお話を聞く機会がありました。Hate crimeという心の暗がりに渦巻くような犯罪で最愛の息子さんをなくされたお母さんが、なお、精力的にゲイという存在への理解のために活躍されていることに頭の下がる思いでした。いわれのない嫌悪という非常に否定的な感情に対して、同じく否定的な態度で臨まない姿勢がどれほど力を持つことか。

コメントは受け付けていません。